
能登支援に行ってきました
― 輪島地域の現状と支援活動報告 ―
二〇二五年夏、私は東北ヘルプの一員として能登半島地震の被災地、石川県輪島市を訪問しました。現地で活動する神社関係者(重蔵神社)の方から、地域の現状について直接お話を伺い、また仮設住宅での交流イベントも実施しました。
当日は、浦島浩司氏によるギターの弾き語りと共に、参加者の皆さんと懐かしい歌を一緒に歌いました。参加者は約十二名。小さな集会所はその人数でいっぱいになり、非常に暑い日だったこともあり、クーラーを使用しても暑さは厳しく、プレハブ仮設住宅の過酷な生活環境が身に沁みました。屋根が太陽に照らされ続ける中での生活は、体への負担が大きいものであることを実感しました。
お話を伺った神社の方は、「地域でなんとかしなければ」との強い思いを抱いておられました。地元の信仰共同体として、人と人との絆を守る役割を果たし続けようとしている姿に、心を動かされました。
ここからは、現地で得た具体的な情報をもとに、輪島地域の現状と支援活動の詳細を共有させていただきます。
今後の見守り体制
輪島地域の現状と支援活動
⑴ 商業・物流の課題
かつては地元に多く存在していた個人商店や食料品店は、倒壊や高齢化の影響でほとんど姿を消しました。仮設商店はあるものの、多くは飲食店で、日用品の購入が困難な状況が続いています。震災直後は物流が完全に遮断され、独自ルートで金沢から物資を輸送し、一月から三月末までは毎日、四月からは週二~三回、七月以降は週一回のペースで物資配布が行われています。
⑵ 支援体制と資金確保
物資の購入・配布には、登山家の野口健氏、米米CLUBの石井竜也氏、岡山県総社市の片岡市長らの協力が得られています。金沢大学もボランティア支援を提供し、特に子ども支援と物資管理に関与。十月をもって物資配布は終了予定で、今後は商店の再建へと支援フェーズが移行します。
⑶ 神社とコミュニティ再建
重蔵神社を拠点に支援活動が行われていますが、建物は震災で大きく損傷。文化財としての申請を進めており、復旧には長期間を要する見込みです。神社は江戸時代以来、地域の災害時に備蓄や支援の役割を果たしてきた歴史があり、今回も備蓄米による炊き出しが行われ、住民の命を守る働きがなされました。
⑷ 輪島ファーストペンギンの設立
震災翌日から活動を開始し、「輪島ファーストペンギン」として法人化。名前は「最初に飛び込む勇敢なペンギン」に由来し、炊き出し・物資支援・ペット救出・避難者支援など、多岐にわたる活動を継続中です。
⑸ 防災の課題と対応
過去の震災の教訓が十分に活かされず、防災マニュアルや備蓄が不十分でした。指定外避難所では物資が届かず、混乱が生じました。今後は民間と行政が連携し、備蓄と避難所体制の整備が求められています。輪島支援共同センターをNPO化し、地域防災組織の構築も進められています。
⑹ 住まいと復興住宅
復興住宅は四年目以降に家賃が高騰するため住民の不安は募り、土地の確保さえ見通しが立っていない。建設用地の確保や予算の課題から、進捗率は約40%にとどまり、復興には時間がかかる見込みです。入居後も孤立のリスクがあり、見守り体制の整備が急務です。
⑺ 教育と子ども支援
被災により6校が統合され、仮設校舎で授業が行われています。避難により金沢などに転校した児童も多く、学習制度の違いから戻れない家庭もあります。ピアノ教室や学習支援は再開しているものの、遊び場や習い事の場はまだ不足しており、心のケアも課題です。
⑻ 外部支援との連携
東北の被災経験者が支援ノウハウを提供し、全国のボランティアや企業も活動に参加しています。ただし、支援の持続性と専門性が求められており、助成金獲得や企業連携による資金確保が今後の課題です。移住者や若者を呼び込む新たな町づくりが必要とされています。
⑼ 宗教法人としての役割
神社では祭りや参拝を通して、避難者や被災者とのつながりを維持し、心の支えとして機能しています。昨年は金沢でも祭りを開催し、避難先でのコミュニティ再生を促しました。学生ボランティアや外部支援者との協働も進み、神社(重蔵神社)が地域の「ハブ」となっています。
⑽ 今後の展望
•物資支援から常設商店の再建へ
•防災備蓄と避難所体制の整備
•NPO法人化による防災教育と人材育成
•観光・体験事業による経済基盤の確立
•お祭りや神社行事を軸としたコミュニティ再構築
この報告を通して、能登の地で今も続く苦しみと希望、そして「共に生きる」ために奮闘している多くの方々の姿を少しでもお伝えできれば幸いです。支援の輪が絶えることなく、現地に寄り添う形で続いていくことを願ってやみません。
他宗教者と支援を共にする意味
クリスチャンとしての視点から
今回の能登支援では、神社の神職の方とも言葉を交わしながら、地域の再建に取り組む姿に触れました。クリスチャンとして、こうした他宗教者との協働には大きな意味があります。
まず何より、災害という非常時においては「いのちを守る」ことが最優先です。宗教や立場の違いを越え、隣人のために働くことは、まさに「隣人を自分のように愛しなさい」(マルコ12:31)という主イエスの教えの実践であり、キリストの愛を行動で示す機会です。
また、地域社会の一員として、神社や他宗教の担い手とともに歩むことは、「地の塩、世の光」(マタイ5:13–14)としての務めでもあります。そこには対話と理解が生まれ、やがて信頼が築かれていきます。
信仰を妥協することなく、誠実に共に働くことで、福音は静かに、しかし確かに人々の心に届いていく、それが、支援を通して与えられる福音の種まきの時であると信じています。